第8話 / 質と量

昼食にラーメンを選択したことに幾ばくかの後悔の念を抱きながら、私たちは道頓堀周辺を歩くことにした。話に聞いていた「かに道楽」のかにや「くいだおれ」の人形などをながめてまわったわけだが、そのさまは周りから見ればおのぼりさんのようであったろう。とくに記念写真をとるためにカメラを構える小木曽さんの姿は、あまりにもはまりすぎていてほほえましくさえあった。

さてそうやって歩いていくうちにやたらと目についたのが「金龍ラーメン」の看板である。ひとつ角を曲がるたびにその看板が目に止まるといった具合いで、そこここに氾濫している状態なのだ。これだけあちこちに店を出しているのだから、私たちがあっけないほど簡単に金龍ラーメンの一店にたどりつけたのも無理はない。私たちが食べたところ以外の「金龍ラーメン」を最初に見つけたとき、ひょっとするとこちらが本店で我々が食べたのは味の落ちる支店だったのではないか、いやいや実は「金龍ラーメン」に見せかけた「全龍ラーメン」とかいうまがいものだったのかもしれない、などと話していたが、そんな冗談を言っていられるうちは良かった。次から次へと出てくる「金龍ラーメン」の文字を見るたびに興がさめていくのを私たちはどうすることもできなかった。

結局、金龍ラーメンが有名なのは、その味ではなく店舗の数ゆえなのだろう。売り物の質よりも店舗展開などのマーケティングの優劣が成否を分けるという現代資本主義社会のひずみを身をもって感じたという意味では、貴重な体験だったかもしれない。