第21話 / こだわり

阪急宝塚駅は高架工事に伴って比較的最近建て直されているため、構内は非常にきれいだ。ただ、そういう時間帯のためなのだろうか、やけに人が少なく、全体的にがらんとした印象を受ける。

電車を降りた私たちは競馬専門紙を買うため改札を出たところにある売店に向った。売店には一通りの専門紙が並んでいたので、各々が別々の専門紙を買うことにした。そこで私はいつも買っている「競馬ブック」ではなくて、多色刷りで派手さだけが売りの「競馬エイト」を買った。ほかの人も思い思いの専門紙を購入したようだ。

そう思っていたら、小木曽さんが店の人と何やらやり取りしている。「え、『競馬ファン』、ないんですか。じゃあ、いいです」。こう言われた売店のおばさんは、「競馬ファン」とはどこぞの専門紙だ、という怪訝な顔をし、一方の小木曽さんは、やっぱり宝塚は田舎だわ、と言わんばかりの表情をしている。二人の認識の違いは、実は単に文化圏の違いに起因するもので、どちらに優劣があるわけではない。こういうやり取りを客観的に見ることができるとなかなか楽しい。

私たちは駅を出るとそのまま碧山荘に向った。その道すがら小木曽さんはさっきの専門紙の話を続けている。「そうか、『競馬ファン』はないか。あそこの白木さんていう人の予想がよく当たるんだわ。僕はいつもあの人の予想を見て馬券を買うんだけどなあ。そうか、ないか。やっぱりここに来る前に買っておけば良かったなあ」。よほどお気に入りの専門紙だったらしく、なかなか愚痴は尽きない。結局それは碧山荘が見えてくるまで続くのであった。