第24話 / 静寂

お風呂から上がった私たちは、最初はお茶をすすりながら雑談していたものの、翌日の競馬がやはり気になる。各々が買ってきた専門紙を取り出しレースの検討に入っていく。みなの表情も次第に真剣になっていき、やがて静寂が私たちの部屋を支配した。

その静寂を破ったのは小木曽さんだった。「やっぱり『競馬ファン』はなかったわ」。そう言いながら部屋の中に入ってきた。「どうして置いていないのかなあ。白木さんの予想は本当によく当たるのになあ。やっぱり宝塚にはないのか...」。どうしてもその専門紙があきらめきれない様子で、手に入れられなかった不満は宝塚の町の方に向けられているようだ。しかし行動は相変わらず素早い。「じゃあ僕はお風呂に入ってくるから」。私たちに声をかける暇すら与えず再び部屋から出ていった。部屋にはまた静寂が訪れた。

「お食事の用意は何時頃にしましょうか」。今度は宿のおばさんの声で静寂が破られた。「あらあら、みなさん明日は競馬に行かれるんですか」。部屋に入ってきたおばさんはそう言いながら笑った。なるほど全員が黙って競馬専門紙をのぞき込んでいる姿は、端から見ればかなり異様だろう。「本当は宝塚歌劇を見たかったんですけどね」と斎藤さんが言うと、おばさんはさらに大きな声で笑い出した。私たちの姿はよほど宝塚歌劇のイメージにそぐわないらしい。おばさんの反応に私たちはただ苦笑するほかなかった。