第27話 / 登場

「来た来た、来ましたよ」。部屋に入ってくるなりおばさんがこう言った。見ると後ろから和泉さんが笑いながら入ってきた。「いやあ、どうもすいません。みなさん、もうご飯食べられました」。和泉さんとは今朝電話で話しているはずなのだが、和泉さんの例の口調が妙に懐かしく聞こえる。「当り前だよ。ほら、そこに和泉の分を残しておいたから、全部食べろよ」。そう言って斎藤さんは私たちが食べ残した肉を指さした。「わあ、どうもすいません」。いつものように笑いながら答える和泉さん。和泉さんのいつも通りの振る舞いは、知多を出てきたことが遠い過去のように感じていた私たちの感覚を、少しばかり引き戻したように思える。

そのためだろうか、それまで特に気にならなかったその日一日の疲れを覚えるようになった。和泉さんは残った肉をあっさりと平らげてお風呂に行った。残ったメンバーはお酒を飲みながらテレビをぼーっと見て、とりとめのない話をしている。かといって退屈なわけではない。みんな心地好い疲労感を楽しんでいるかのようだ。やがて和泉さんが戻ってきたが、状況に大きな変化はなかった。その心地好さが本当の疲れに変わらないうちに寝てしまおうと考えることは自然な流れであろう。私たちは部屋を片づけて眠りにつく準備を始めることにした。