第30話 / 先即制人

どうしても寝つけないまま隣を見ると和泉さんが気持ち良さそうに眠っていた。何人かが一緒に寝る場合は、とにかく早く寝た者が勝ちということだ。さすがに斎藤さんはそこを承知していたのだろう。いち早く壁を向いて寝てしまい、和泉さんのいびきにもびくともしない。一方、山本君の方を見ると動きが多い。おそらく熟睡にはいたっていまい。彼も誰かがいびきをかくことは予想していたかもしれないが、まさか夜中にからだをぼりぼりとかきむしる音がすぐ隣から聞こえてこようとは考えていなかったろう。

眠れないまでも少しは横になっていないと次の日がつらくなる。そう思った私はふたたび布団の中に入った。すると入れ替わるように斎藤さんが起き上がり部屋を出ていった。しばらくすると斎藤さんが戻ってきて、また前のようにぐっすりと眠りに入る。こんなに簡単に寝つける斎藤さんがこの日ばかりはうらやましくて仕方がなかった。

このまま朝まで眠れなくても良いから、とりあえず目だけは閉じていよう。そんなあきらめに似た気持ちになったとき、私の体から力が抜けて意識が薄らいでいった。