第32話 / 隔靴掻痒

おばさんの指示にしたがって私たちは食堂に向かった。おばさんは私たちに「残念な天気になりましたね」と声をかけたが、表情にはその言葉に似つかわしくない笑顔が浮かぶ。なにやら他人の不幸を楽しんでいるかのようにも見える。

食堂に行く途中に電話があるのを見つけ、山本君がJRAのテレホンサービスに電話をかける。しかし電話はつながらなかった。どうもこの状況で考えることは誰もが同じらしい。

食堂では競馬が開催されるかどうかが話題の中心になった。台風が来ている中でも平気でレースを行うJRAも雪にはまるで弱い。最近開催が中止になるケースはほとんどが積雪によるものだ。今回もあまり良い見通しは立たず、会話も沈みがちになる。

そんな中、和泉さんだけは能天気にご飯を食べていた。「みなさん、もう食べられないのですか」と、空になったお櫃を見ながら言う。どうやらご飯をもらいにいく口実がほしいらしい。「そんなに食いたきゃ、おばさんに言ってご飯もらってくりゃいいじゃん」。斎藤さんにそう言われると、それではとばかりに空のお櫃を持ってご飯をもらって来た。

和泉さんが満足するのを待って、私たちは食堂を片付けて部屋に戻った。その途中、小木曽さんと山本君がもう一度電話をかけたが、やはりつながらない。部屋でもテレビを見て情報を求めたが、さすがに競馬の開催についてはニュースでは扱っていない。JRAは特定の時間に開催の情報をテレビ・ラジオで流しているのだが、それがいつ、どの局に流れるのかを誰も知らないものだから、ただやみくもにチャンネルを変えることしかできない。知りたい情報が得られないもどかしさを感じる中、宿を出る時間は刻々と近づいてきた。