第33話 / 転換

もう一度電話をかけてみると言ってまた山本君が部屋から出ていった。そのあいだ私たちはもう競馬が中止になったときのことを考えはじめていた。「競馬がだめなら競艇に行こうか」。「いや昨日見ることができなかった吉本新喜劇にしよう」。「いやいや昨日見れんかったというならストリップだわ」。「競馬関係だとちゃやまちアプローズという手もありますね」などなど。その切り替えの速さは見事というほかはない。しばらくして山本君が帰ってきて開催延期の決定を伝えたとき、それはまるですでに予期されていたことのようにさえ思えた。

深谷さんが有馬記念の当り馬券の払い戻しをしたいというので、せっかくここまで来たのだし、開催はなくても払い戻しくらいはやっているだろうということで、とりあえず阪神競馬場に向かうことにした。宿を出るときおばさんが「今回は残念でしたけど、また来てくださいね」と言うと、「今度は宝塚歌劇を見に来ますよ」と斎藤さんが答える。するとおばさんはまた大きな声で笑い出した。

私たちは碧山荘を後にして阪急宝塚駅に向かった。今度は今津線で仁川まで電車に乗る。駅の切符売場の前ではJRAの職員が立って、開催が月曜に延期されたことを告げていた。そのすぐそばで私たちが仁川までの料金を確認するのを彼らは怪訝そうな顔で見ていたが、しかし私たちに対して何か言うということもなかった。

乗り場に行くとちょうど西宮北口行きの電車が入ってきた。始発なので難なく座れたが、昨日のこともあるので2・3人ずつにわかれて座った。そのうちどんどん人が乗ってきて、ある程度立つ人も出てきたころ電車は宝塚を出発した。