第34話 / 仁川

宝塚駅を出た電車は宝塚歌劇場の脇を通って南へと走る。名残惜しそうに歌劇場をながめる斎藤さんの顔が印象的だった。仁川は宝塚から4つめの駅で、途中、逆瀬川など競馬のレース名としてなじみのある地名にも出会い、確実に競馬場に近づいていることを感じる。電車は駅ごとに多くの学生や通勤客を乗せ、仁川に着くころには満員の状態になっていた。こうしてみるとやはり週休2日はありがたい。

仁川駅で降りると、ここでもJRAの職員が開催の延期を告げていた。私たちはかまわず競馬場の方に歩いていった。人のいない競馬場もまたおもしろいかもしれないと思っていたら、意外にも私たちと同じように競馬場に向かう人が結構いるのである。そのためだけでもないだろうが昨夜からの雪が踏み固められ路面が滑りやすくなっている。

困ったことに阪神競馬場に行くには途中階段を降りなければならないところがあり、そこがかなりおっかない。恐る恐る階段をおりると上の方からたどたどしい日本語が聞こえてきた。「キョウハ、ケイバ、アリマセン」。見るとイラン人風情のお兄さんがこちらを見ていた。すると何を思ったか斎藤さん、「オーケー、オーケー。アイノウ、アイノウ (OK, OK. I know, I know)」と相手に負けないくらい発音も文法も怪しげな英語で答えた。あっけにとられる相手をよそに、私たちはそのまま競馬場へと歩いていった。