第39話 / 懐顧

モニタの前に立った私は最初にどのレースを見るかを思案した後、私が競馬の世界にひきこまれるきっかけとなったレースを選んだ。ミスターシービーが3コーナーから豪快なまくりを決めた菊花賞である。

見たいレースを指定してからレースの実況が始まるまで少し時間がかかる。このあいだ、ほかの人が何をしているのか見てみると、みんな思い思いにこの場を楽しんでいるようだ。競馬グッズに見入る山本君、小木曽さん。共同馬主クラブのパンフレットを広げる和泉さん。競馬の資料を丹念に読んでいく深谷さん。それぞれの競馬に対する姿勢を表しているようでなかなかおもしろい。

そう思っていると斎藤さんがこちらにやってきた。ミスターシービーのレースを見終ると、斎藤さんは次々に、こんなレースはないか、とリクエストしてくる。まずは最初から最後までぶっちぎりの圧勝ということで、テスコガビーが勝ったときの桜花賞。次のリクエストは派手な追い込みで圧勝したレース。そこでサッカーボーイが勝った阪神3歳ステークス。今度は笑う馬が見たいというので、ダイタクヘリオスのマイルチャンピオンシップ。落馬シーンが見たいということで、メジロデュレンの有馬記念(落馬したのはメリーナイス)。ついでにロンシャンボーイが勝った昨年の京阪杯(空馬のワイドバトルが一番最初にゴール板を駆け抜けた)。

こんな感じで次々にレースを見ていくと本当に時間が過ぎていくのを忘れてしまう。斎藤さんもレースごとに「おぉ」と言っては楽しんでいるようだし、私もそれらの実況をついこのあいだ聞いたようにさえ感じ、かつてその結果に一喜一憂したことを懐かしく思い出していた。おそらくそうした気持ちがあるうちは競馬をやめられないのだろう。