第55話 / overture

喫茶店の中に入った私たちはもう一度メニューを開いて、各々がお目当てのものを確認し、一人一人が注文していく。斎藤さんと私がコーヒーを、山本君がアイスコーヒーをたのむ。そのあと深谷さんと和泉さんはケーキセットを注文したのだが、このとき小木曽さんが二人の方を見てふっとほくそ笑んだ。一体その笑みが何を意味するのか不思議に思うあいだに小木曽さんが注文したものは何とカレーライスだった。

「小木曽さん、カレーなんか食べるの」。斎藤さんが尋ねる。「いやあ、おなかすいてきたし、それにさっき値段を見たら、これがコーヒーと同じだったんだわ。それならカレー食べた方が得だと思って」。「え、そうだったんですか。しまったなあ。何で小木曽さん先に言ってくれないですか」。和泉さんが悔しそうに言う。

さてそのうち注文したものが次々にテーブルに運ばれてくるが、小木曽さんのカレーライスだけがなかなかやってこない。しかし小木曽さんの表情には余裕すらうかがえる。この場でカレーを注文し、周囲を驚かせたこと自体が小木曽さんを満足させているのだろうか。やがてカレーライスが小木曽さんに置かれると、和泉さんがうらやましげなまなざしを向ける。それは小木曽さんの満足をいっそうふくらませたようだ。しかし事態はこのあと小木曽さんの予想していなかった方向へと進み始める。