第65話 / あきらめ

しばらくして深谷さんが戻ってきた。「いやあ、あっさり断られてしまった」。こう苦笑いしながら私たちに言う。「武豊駅まで迎えに来てくれって言ったんだけど、こんな雪の中を運転したくないだって。こんな雪の日だから迎えにきてほしいのになあ」。「うーん、それは残念」。「こんな日じゃタクシーもいないだろうし、まああきらめて歩いて帰りますか」。やがて特急がやってきて、私たちは電車に乗り込んだ。

この時間の特急は、通常の停車駅のほかに、南加木屋や巽ヶ丘、南成岩などにも停車する。「これじゃあ急行と変わらんな。特急料金も少し割り引いてほしいな」とは深谷さんの弁。なるほど感覚的にも、太田川からかなり細切れに止まる感じがする。結局、特急乗車に必要なのが「特急券」ではなく、「座席指定券」であるというのがミソなのだろう。要するにそれはスピードへの対価ではないということだ。

「ああ、やっぱりだめか」。半田を過ぎた頃に斎藤さんが言う。知多半島ならあるいは雪の積もり具合も多少ましではないかと期待していたのだが、今回の雪ばかりはそう都合良くいかないようだ。「しょうがない。雪の中を歩きましょうか」。斎藤さんも覚悟を決めたようだ。そうするうちに武豊に到着。私たちは電車を降りた。