第66話 / 雪中行

武豊駅前にはやはり車の姿は見えなかった。私たち4人はしかたないという感じでとぼとぼと歩き始めた。雪の降り積った道はかなりすべりやすくなっており、平らなところを歩くことすらおっかない。まして私たちは坂道を登っていかなければ寮や社宅に帰ることができない。4人は一歩一歩踏みしめながら恐る恐る歩いていく。

悪いことは決して単独ではやってこない。私たちを苦しめたのは雪ばかりではなかった。もともとこのあたりは風の強い場所だが、この日の風は一段と強い。50kgにも満たない私などは簡単に吹き飛ばされそうだ。それでも農業試験場のあたりまで登りきると、衣浦寮を照らすオレンジ色の明りが見えてきて、やっと帰ってきたという実感がこみ上げてきた。

こんどはゆっくりと坂道を下り、衣浦寮をめざして歩いていく。相変わらず風は強く、足元はすべりやすい。私たちは登るとき以上に慎重な足取りで坂道を下っていった。「でもこのタイミングで雪がこんなに降るなんてすごい偶然だよね」。「けど逆に言えば、めったにできない体験ができたってことですよね」。「そうそう、この2日間って、すっごい密度濃かったと思う」。寮を目前にして、私たちは2日間のできごとを振り返る。この2日間の体験をこのまま終わらせるのは惜しいという共通の思いがそうさせたのかもしれない。

やがて衣浦寮の前に到着し、深谷さんは社宅へ、斎藤さんと和泉さんは衣浦寮へと分かれていく。そして残された私も知多寮へと歩きはじめた。